―― 楽曲概説シリーズも最終回を迎えました。前回のヴィーナス盤収録曲に続き、今回はシリウス盤、オリオン盤の収録曲についてお話しを伺います。まずは、シリウス盤チーム曲「ブルーヴァレンタイン」について。
清水:これは最後の出来た曲です。3タイプをチーム盤にすることにしたので、曲数は公平に4曲ずつ収録しなければとなったんですが、9曲の目処はついたんだけど10曲目がなかなか決まらなかったんです。ちょっと企画曲というか、コミカルな曲が欲しいなと思って、「Star☆Tかぞえ歌」とか「Star☆T体操」とか色々考えたんですが、どうもどれもピンとこなくて。
当初、12月発売の計画もあって、クリスマスソングをと言ってたんですが、結局1月発売になったんで立ち消えたんです。で、「あ、季節ソングにするか、1月末発売ならヴァレンタインソングだな〜」と。それが決まったら、そこからは早くて、ヴァレンタインソングならタイトルは「ブルーヴァレンタイン」にしようと。1年前に亡くなられた大瀧詠一さん追悼ですね(どうしてかは検索してみてください)。
ここで、また別の筋の話なんですが、4枚目シングル収録の「癪にさわるけどshiny day」を、かの吉田豪さんにラジオで紹介していただきまして。渋谷系が今のアイドル曲に潜んでいるという特集で、フリッパーズギターの曲にそっくりな曲があるという感じで。実は「癪に――」を作る時にはパーフリの曲はすっかり忘れてて、さらにその元からひっぱってきた感じなんですが、吉田豪さんに言われて「確かにフリッパーズギターだったな、この曲」となって。メロがまったく一緒じゃなくてよかった、とホッとしたくらいで(笑)。で、それなら、今回は思いっきり渋谷系をやってしまおう、渋谷系ならやっぱり本山のピチカートファイブだと。田島貴男時代には大瀧詠一の「指切り」をカヴァーしてるし、これで繋がった!という感じで(笑)。だから「癪にさわるけどshiny day」のパート2ですね、この曲は。
ということで、詞もそういうこだわりがめっぽう好物な伴野紀子に頼んで、ストーリーのない語感重視のファンタジーな詞にしてもらいました。歌詞に出てくるビルの上にいるH君は、エイイチ君ということです。これは私じゃなくて伴野のアイディアです。
ボーカルはシリウス曲ということで、個性のシリウスらしく、他にはない感じにしたくて、ダブルボーカル(歌を2回重ねている)で、みんなに「とにかくささやく感じで」とかわいく歌ってもらいました。橋本佳那とか森本凪彩はどちらかというと張り声なので、今回の声は珍しいかなと思いますし、5人の声の特性がよく出てますね。
―― 続いては「情(なさけ)」について。ここでは作詞作曲の古川良則さんに入ってもらいます。
古川:よろしくお願いします。
―― 古川さん曲収録の経緯からお聞かせください。
清水:私と一緒にStar☆Tの運営プロデュースをしている古川さんは、実は高校時代にフォークデュオをやってて、結構いいところまで行ってたそうで、今回10曲収録で、色んなジャンルの曲を入れたいと思って「1曲フォーク曲入れましょうよ」という感じで軽く頼んだんですよね。
古川:この曲は、実は今回初めて作った曲ではなくて、楽曲の基本ベースは昔、私が哲学の先生に師事したときに先生と一緒に創作して出来ていた曲なんです。先生の鼻歌のフレーズをコードに当てはめて歌詞をつけてある程度の曲として作っていました。先生も私も直感タイプですので、上から降りてきたフレーズ、いや、集合的無意識の或部分からのフレーズを「わーっ!」と一気に書き留める感じです。ですから、私一人で作った曲ではありません。
それで、今回、CDの中に入れる1曲として清水Pから「ど・フォークを」の依頼があり、個人的にこの曲が好きなので、この「情(なさけ)」を提出しました。
清水:デモを聞いて「おおお、これぞフォークだぁぁ」と興奮しちゃいましたね〜。私も、菊地さんや正木さん和香さんも、フォークはリアルタイムで通ってないので、こういう曲は書けないですからね、古川さんじゃないと。また、歌詞もいい感じで。
古川:元の曲とメロディ自体はそう変わってないのですが、歌詞の方はアイドルが歌うのには渋すぎなんで、途中途中のフレーズはそのままに、ご当地感も入れつつ今の形にまとめました。
私は、打ち込み機材なんかは持ってなくて、ギター1本ですから、デモ曲の録音はマンションの部屋で、いつも撮影で使っているカメラを自分に向けて、嫁が寝ているタイミングを狙い、そっと静かに歌い録音しました。もし嫁に見られてたら、死ぬほど恥ずかしい・・・(笑)。
―― ボーカル選定についてはいかがでしたか。
古川:この曲はわりと奥深い感じの曲なんで、個人的には、逆にさらっと呟く感じで歌ってくれるメンバーがいいと当初から思っていました。オーディションして清水Pと相談して2人に決めました。
清水:安藤笑と林美憂は、Star☆Tの憂い系歌姫の両巨頭ですからね。
古川:ところで、創作中に個人的に思ったんですが、メロディが日本古来の音階に通じ、子守歌のような感じでもあるし、沖縄調の音階にも通じる部分(龍宮界の感じ)など、改めて日本人の心の深い部分に沁みる曲だと感じています。
清水:アレンジも、本当にシンプルに、ギターとバイオリン、途中からドラムとベース、と余分な音は使わないようにしました。自分の曲だとどうしてもどんどん音を重ねちゃうんですが、この曲は余分な音はいらないなと。
古川:やはり、今、何度聞いてもこの曲に関しては、とてもアイドル曲には思えませんね(笑)。でも、今回のCD(いろんなジャンル曲)としての1曲として、一役になっていて、面白いかなと思っています。
―― 続いて、シリウス盤最後の曲「Because I was born in this city」について
清水:この曲も2つの続編が重なってまして、英語詞としては「Motor City Queen」の続編、詞の内容は「この街に生まれたから」の続編になってます。曲自体はかなり昔に作った曲で、私が映画を作り始めた最初の「公務員探偵ホーリー」用に作った曲なんですが、渋すぎるってことでボツにした曲です。この曲の元ネタは教授ですね、坂本龍一さん。「NEO GEO」に入ってる曲とか、ヴァージン時代の曲とか、それに「Sweet Revenge」に入ってる「A Day in the Park」って曲がとても好きで、その辺をごちゃまぜにしてとにかく教授っぽく、色んな音やメロディが段々重なっていく曲がやってみたくて。レコーディングとミックスをやってくれているBoxVoxStudioの深井さんもそのあたり理解してくれて、色々とアイディアを足してくれました。ミックスでかなりよくなった感じがします。
メインボーカルは橋本佳那、サブで歌ってるのは安藤笑、千賀璃奈、嶋ア友莉亜です。サブの3人は主旋律とハモと両方重ねてますね。佳那は「世の中で一番英語が嫌いだ」と言ってかなり苦しんでましたが(笑)、いい感じで入れてくれました。彼女の声はちょっと黒い(ブラック系)んですよね。うちでいうと、佳那と牧野凪紗は黒い方で、怜緒奈とか笑、璃奈は白い。なので、佳那の声はこういう曲には合いますね。
シンプルなメロディなので、詞は英語にしたいと当初から思ってて、それなら以前の曲から英語をひっぱってきちゃおうと思って探したら、Star☆Tの楽曲って「Motor City Queen」を除いたらほとんど英語使ってないんですよ、これが。どんどん遡ったら、最初の「この街に生まれたから」に行きついてしまった(笑)。「この街に生まれたから」の冒頭に、ルーシー(Star☆T1期生)が英語をしゃべってまして、あれは彼女が訳した詞なんですが、その「the reason why is because I was born in this city」を元に拡げて作りました。
清水:ここまでがシリウス盤です。個性のシリウスなんで、渋谷系、フォーク、英語曲と遊んでる感が満載な盤ですね。ヴィーナス盤は清水曲がないんですが、逆にシリウス盤は「モノクロームデイズ」以外は作曲かアレンジを清水がやってますので、大分雰囲気が違うんではないかと思います。
―― それでは、引き続きオリオン盤について伺います。まずはチーム曲「パパとママの物語」について
清水:これもかなり前に作った曲で、10年位前に豊田市の図書館で子ども向けのミニミュージカルをやったことがあって、その時に作った曲です。自分では当時から結構気に入ってて、いつかなんかの形でレコーディングしたいなと思ってまして。ミュージカルの内容が、みんなが生まれる前のパパとママの1日を想像してみよう!という出し物で、偶然なんですが「My mother,My father」の続編として位置づけられるなと、詞もほぼ作った時のままです。チームオリオンは5人が4期生なんですが、まだみんな幼い感じなので、こういう曲が合うかなと。お父さんお母さんへの感謝を歌うスンタンダード曲になるといいなと。
曲自体は、細野晴臣さんのトロピカル時代を意識して作った憶えがあります。マリンバの音とか使いたくて。リズムがトロピカルじゃないですけどね。実はあのノリは難しいですね。オリエンタルな、ちょっと古いミュージカルアニメに出てくる曲、みたいなイメージです。
歌も、子供が歌っているように、ひねらず自然に歌ってもらいました。まあ、4期生はまだテクニックはないんで。パートは、1番が嶋ア友莉亜と中野采美、2番が橋本杏奈とmisola、3番が朝空詩珠紅と萩野陽向子です。ブリッジの部分は、嶋ア友莉亜と橋本杏奈と朝空詩珠紅が歌ってます。
―― 続いて、オリオン盤3曲目の「いちばん優しいひと」について。ここでは作詞作曲の菊池卓也さんにも入ってもらいます。この曲は、なんとアカペラですね。
菊池:恐らくStar☆Tの中でも屈指の異色作と自負しております。タイトルは“やさしい”なのに、やってる事は全然優しくない!みたいな(笑)。Star☆Tの楽曲がバラエティに富み過ぎる(今回特に)と言われるのは78%くらいは僕のせいです(笑)。
もともと自分自身がアカペラボーカルをやっていたこと、アカペラアレンジもしていたという経緯もあり、前述の楽曲打ち合わせの際に軽いノリでやりましょう、ということになりました。
歌詞は基本的には失恋のテーマ、しかしガッツリ恋愛の事を描くより、それ以外の「愛」にも当てはまるよう組み立ててみました。単純に恋愛ストレートな内容が苦手という事もありますが(笑)。
―― アカペラのアレンジってとても難しいそうです。
菊池:実は女性のみのアカペラは難易度がかなり高いという現実があります。声域にどうしても制限が出てくるためです(特に低音)。男女混合では昨今海外で話題のグループもあり、アカペラ熱が再び出てきたのかな、という感覚もありますが、いきなりボイスパーカッションなどで派手な演出をするよりも、ストレートで基本を押さえていこう、と思い山下達郎さん(アカペラは彼のライフワークと言えるものです)をイメージした、極めてシンプルなものにしようかなどと試行錯誤の結果、4声のベース無し、ほぼ地ハモというアレンジに落ち着きました。
しかし低音、出来るだけレンジの狭いアレンジにしたつもりですが、やはりキツい。一番声が低いと思われるあかりん(わきゅ)さんでも寝起きか酒飲んでる時くらいしか出ないだろうと思われる低音を何とか出していただきました(笑)
この曲に関しては、別日に自宅でこのためだけにレコーディングをしました。スタジオと比べると環境は決して良くないですが、時間に拘らず自分の思うように録音出来ると思ったからです。そして彼女は他のメンバーが帰った後も自身の納得がいくまで、深夜12時過ぎまで録音に付き合ってくれました。あかりん以外でも、コーラスに関心を持ってくれたメンバーが必然的に良いテイクを出してくれたので、優先的にそちらを採用しました。僕はボーカルトレーニングも行っておりますが、アカペラでは特にロングトーンが重要な要素になりますので、最近はそれを見越したトレーニングをしてきました。多分メンバーは退屈だっただろうけど…(苦笑)
編成は、トップから、あんな、なぎ、りな、あかりんの編成です。
トップ(メインボーカル)の橋本杏奈さんは、チームオリオンということ、何とも言えぬ儚い歌声という理由もあり今回採用しましたが、チームヴィーナスの牧野凪紗さんにも良いテイクを頂いているので、個人的にも、また需要があるようでしたらそちらのバージョンでも音源を出そうかな、と勝手に思っています(笑)
清水:ステージで生歌で披露したいですね〜。アカペラは生でやってこそですから。必ずステージに上げたいと思ってますので、楽しみに待っていてください。これからもう特訓です。
―― いよいよ最後の曲になりました。それでは「叫べっ!」についてお願いします。
清水:前回お話ししたとおり、リード曲オーディション用に書いたロック曲です。早いテンポでロックでと条件を出した手前、これぞというロックをやってみようと。“ど”がつくロックな曲はこれまでないので、ドラム、ベース、ギターの3ピースで1曲って感じで。
実はちょうど夏前に車を買い替えまして、そのカーステレオに90〜00年代のJ‐POPがいっぱい入ってまして(前の所有者の趣味なんだと思います)、当時ほとんど私はJ‐POP聞いてないんですけど、聞いたら、モンゴル800とかいい感じだなと。それから、案外オレンジレンジなんかもよかった。沖縄インディーズですよね?あのあたりの感じ、ギターの音とかいいんですよね。ああいう感じにしたいなと。ロックというかパンクですね、歌謡パンクみたいな路線を狙って。それと、作る時はサンボマスターも聞いてましたね、サンボマスター好きなんです。
でも、イントロのリフは、高校時代にバンドでよくやってたライドネスの「Let It Go」まんまです!アナ雪じゃないですよ、ラウドネスの「Let It Go」。へヴィメタバンドやってたんです。ラウドネス、アースシェイカー、ヴァンヘイレン、モトリークルー・・・、そういう時代です。そこを通ってる人は、このリフを聞いて、ムフフ・・・となってください。私も本当に久しぶりに「Let It Go」聞いたら、やっぱりかっこよかった〜。
すいません、話が脱線しました。歌詞は伴野紀子に依頼しました。彼女も根っこはロック好きなので、もう丸投げで好きなように書いて〜、と。「浮世さだめに逆らい」とか「止めてくれるなこの旅路(みち)」とか、浪花節ロックですよね。「まっとうな道じゃないかもしれないが好きなことだから進むんだ!」という、アイドル自身の宣言でもあり、毎週のようにライブに来てくれるファンの方たち(まっとうな道じゃないですよね、多分)と一体になろうという内容で書いてくれました。
この曲は「モノクロームデイズ」とともに発売前からステージに上げてて、最後にやることが多いので、CDでも最後の収録にしたいなと。アルバムというコンセプトから言うと、ヴィーナス・シリウス・オリオンの順で繋げて聞いてもらってもいいと思います。その締めが「叫べっ!」になってます。
―― 長丁場ありがとうございました。最後に清水プロデューサーから、「モノクロームデイズ」をお聞きのみなさんにメッセージを。
清水:今回は3タイプで10曲収録という大作で、3組の作家陣がこれまでの流れの末に辿り着いている、“続編”的な要素とまったく新しい要素の両方が絡み合った1枚になってます。まあ、いわば、これまでのStar☆Tの楽曲についての集大成になったかなと。次のことを考えずにギリギリまで絞り出しちゃったというか、ストック使い果たしちゃったというか(笑)、そんな集大成になってます。3年やってきて歌もみんな大分上手くなったなと思いますし、ファンの方にとっては、いろんなメンバーのソロ歌やコラボが聞けるのもお楽しみいただけると思いますので、10曲を「フムフム、ムフフ・・・」と聞いてもらえればうれしいです。