― まずは、トータルプロデュ―サ―の清水Pより本作の制作経緯をお聞きします。
清水:Star☆Tは毎年大体1〜3月に新しいCDを発売してきているんですが、2016年度の「コングラチュレーション〜希望の鐘の音〜」、昨年の「メロウ」は、夏〜秋に先行で収録曲をステージにおろして、MV発表して、あとからCD収録するという順番でやってきてます。なので、今年も夏に新曲やりたいなぁと思ったんですが、2月に出した「メロウ」はアルバムで収録曲も多く、全部新曲でしたのでまだまだステージでやり切れてないくらいで、Star☆Tとしての新曲はまだ早いなぁと。で、それならここで、牧野凪紗のソロシングルを出そうという発想になりました。
― 制作の流れは?
清水:2月くらいには、本人と「夏にソロシングルやろう」と話してましたが、内容をどうするかなかなか固まらなかったんです。現在のStar☆Tの路線、アイドル王道路線とは違う感じにしたいとは思いましたが、なら具体的にどういう楽曲を揃えるかについて結構悩みました、楽曲制作を誰に依頼するかも含めて。バラードはやめようってのは最初から決めてましてけどね、Star☆Tで何曲かソロで歌ってるので。
それで、5月に本人とアシスタントプロデュ―サ―の和久田も入って打ち合わせして、どんな曲が好きか、どんな曲を歌いたい等聞きつつ、“シンガー”牧野凪紗のいろんな面を出していくシングル、4曲まったく違ったジャンルの曲を収録する、牧野凪紗の4つの歌の世界を出す内容にしようと。それで、今回は、まず4曲の曲ジャンルを決めて、ジャンルを指定して藤村さんと菊池さんに1曲ずつ依頼して、あと2曲は私が作ることにして、楽曲制作に入りました。制作期間は、約1ヵ月で曲を作ってもらって、作詞もして、7月初旬にレコーディング、すぐミックスしてプレス入稿とかなりタイトでした。
― それでは1曲ずつ解説お願いします。まずは、「STORY」作曲・編曲の藤村のりおさんから。
藤村:「恋するマーメード」に続き、参加させていただきありがとうございました。清水Pからavex系でお願いしますとのことで、苦手なジャンルで戸惑いました(汗)。色々音源を探し、サウンドを参考にしましたがあまりそれっぽくならなかったかなと…。
こだわった所は、ソロということで、あえてコーラスをたくさん入れてみました、たくさんの牧野凪紗さんの声をお楽しみいただければと思います。
清水:牧野との打ち合わせで、好きなのは長年親しんできたavex系の音色だということで、avex系の曲は1曲やろうと。それで、誰に楽曲制作を依頼するか迷ったんですが、Star☆Tのアルバム「メロウ」の時に、こちらのオーダーにドンピシャで答えていただいたのが藤村さんだったとの思いがあり、確実にポップさを出して欲しくて藤村さんにお願いしました。苦手なジャンルだったんですね、、、でも、いわゆるavexの王道、シンセ等の音色感ではないですが、そうですね、E-Girlsっぽいというか、avex系のもう1つの側面を責めてもらった感じですね。
藤村:また、機会ありましたらぜひよろしくお願いいたします。
清水:次は得意なジャンルで(汗)。
― そして、「STORY」の作詞を担当した牧野凪紗さんです。
牧野:せっかく自分のソロシングルをリリースするということで清水さんから作詞のお話をいただき、実はちょっと作詞には苦手意識がありましたが是非ということで、今回作詞をしました。歌詞はジャケット写真の様にオールディーズをイメージして、想像して楽しめるように作りました。"クリーム鼻につけて"のフレーズは最初清水さんと打ち合わせの時から絶対入れようって決めてました。歌詞全体はフィクションですが、昔見た夢の中のお話で、楽しい幸せな気持ちになる曲です。大体イメージが固まってからは、2日くらいで一気に書きました。
清水:ソロシングルということで、本人に1曲は作詞してもらおうと。楽曲のデモが出揃ったた時の打ち合わせで「STORY」をリード曲にすることを決めて、ジャケットの雰囲気や衣装と一緒に歌詞の方向性も決めてという感じでしたね。曲に、アメリカの50‘sぽい、オールディーズっぽいニュアンスを感じたので、そういう世界感、歌詞も50’sにタイムスリップするというか、「バック・トゥー・ザ・フゥ―チャー」の感じと言いますか、ダンスホール、ポニーテール、映画の世界などのフレーズは出ていて、本人も「なんとなくいけそうです」って感じで。「豊田にそれっぽいお店もありますよ」ってなって、じゃあジャケット撮影もそこにお願いしようってところまで決めてしまいました。詞もすぐ届いたように思います。牧野はStar☆Tの「15センチ」という曲の作詞もしてますが、その時は結構直したというか何回かダメ出しをしましたが、今回はほぼ直しなしですね、譜割りの合わないところ少し言葉を入れ替えたくらいです。タイトルもすんなりと「STORYでいこう」となりました。
― 続いて2曲目「赤く塗れ、焔を焦がせ」について。作曲・編曲の菊池卓也さんです。
菊池:5月に、清水Pと打ち合わせ(という名の飲み会)して、今後のグループの展開の一つということで、牧野凪紗ソロプロジェクトのお話を伺いました。シングルなので4曲ですが、楽曲の方向性はすでに決まっているとのことで、キラキラした雰囲気の曲、ソウルフルな方向性の曲、ビックバンド風のジャズ曲、フォークソング、とイメージ元となる歌手を挙げながらの説明で、既にこの時点でバラエティ極まれり!と戦慄した覚えがありました(大袈裟)。で、それぞれの曲の担当も決まっており、僕がソウルフルな曲の担当になりました。
そこから構想が始まるのですが…ソウルといっても色々なジャンルあるしなぁ…とりあえず声を張って歌い上げるタイプがいいな、と漠然とは思っていましたがフレーズが出来ては消え、また出来ては消えと葛藤を続けていました。
そこで、一旦曲メロから一歩引いてバッキングをまず考えてみよう、と思い仕切りなおしました(ここまで全て頭の中)。
Star☆Tに関わらせていただく以前は、仕事や友人の依頼などでR&Bやソウルファンクの曲をよく制作したり、耳コピでオケなどを制作していました。その時のことを思い出して、R&Bはループ曲※も多いしこの曲もそういう仕掛けで作ってみよう!と考え、ここで初めてシーケンサーと向かい合いました(毎度の事ながら立ち上がりが遅くて申し訳ない気持ちです…)。
で、ピアノから入っていったら「お、このフレーズ使えるかも」とすぐに思い、続きのバッキングがどんどん出来ていきました(まさにイントロからのピアノがそれです)。結果的に邦楽的アプローチは出したいのでずっと同じ展開では無いですが、AメロとDメロ(ブリッジ)以外はほとんどこのピアノがどこかで鳴っています。
メロディラインは結局一番最後に出来上がりました。歌うように作るイメージです。最後のアドリブっぽいフレーズはスタジオの中でやっと完成させました…。
※テーマとなるフレーズや進行を繰り返しメロディやコーラス、バッキングがそこに様々なアプローチで乗っかり展開や厚みを出していくタイプの曲。Aメロ,Bメロ,サビなど定型通りで無い曲も多い
清水:牧野の声はどちらかというと黒くて、艶があるので、一番合うのはソウル系だと前々から思っていて、なのでR&B感のある曲は1曲入れたいと、菊池さんにお願いしました。アイドルっぽさは全然考えなくていいですと。Superflyとか、LOVE PSYCHEDELICOなどの名前が出てたと思います。
菊池:ザ、歌姫「牧野凪紗」ということで、グループでは絶対に演れない曲を敢えて目指しました。ミックス打てるような激しい展開も落ちサビも、いっそダンスもありません。完全にアーティストとして歌に集中するスタイルになるかと思います。「ソロだけどグループ曲とあまり変わらないじゃん」と絶対に思われたくなかった、という意地もあります(吉と出るか凶と出るかはまだ分かりません…笑)。
グループでの牧野さん自身はフワッとしたイメージがありますが、僕の中ではこういった情熱を秘めた熱い部分が見える気が(勝手に)ずっとしていて、この曲でそれを存分に出してもらいたい!という気持ちです。
仮デモを送った後に、キー確認のために清水Pがギターを弾いて歌っているデモが返ってきて「半音下げた方が良いかも」と提案されましたが敢えてギリギリのキーで歌った方が美しく聴こえるし、歌えば歌うほど良い意味で「手の抜き方」が出来て完成されていくな、と直感的に思いキーはそのままにしていただきました。きっと最初は歌うのしんどいかなぁ、と思いつつも…笑
また、この時にギターとボーカルのみの構成って良いなぁとずっと思っていて、別曲のレコーディングで現場に居たGENTさんと共謀(?)してイントロ前にサビのフレーズをギターボーカルのみで入れてみました。ギターとボーカルが別ブースに入りテンポフリーで一発録りをしました。生禄です。
曲自体はピアノフレーズのループから膨らませていったので、全体的にシンプルな構成になりました。ゆえにアレンジの余地が沢山あります。CDは打ち込み重視の作風ですが、バンドサウンドなら全く違う色を見せるんじゃないかなと思います。
サビの頭はベース音が抜け徐々に加わってきますが、かなり低域域から刺すように入っていきます。低音が良く聴こえる環境だとズーンと響いてダークさがより際立つと思うので、そこが一番の聴きどころです。ボーカルもバッキングも、色々な現場で歌われる度に進化していく、まさにアーティスト!なソロ曲になればと思っています。
― 作詞は清水Pですね。
清水:Star☆Tの時は基本なるべく楽曲制作、作詞はやらないようにしてるんですが、今回は挑戦的なジャンルの曲が多いので、作詞も依頼すると収拾がつかなくなる気もして、詞も書こうと思ってました。ただ、作曲の2曲とも自分だと幅が狭まる気もして、「真昼のノワール」の作詞は長年詞を書いてもらっている伴野の依頼して、自分は「赤く塗れ〜」の作詞をやろうと。
「赤く塗れ」のフレーズは、もちろんローリングストーンズの「黒く塗れ」からです。内容は密室でむさぼり合うように求めあう男女、映画「ラスト・タンゴ・イン・パリ」のような、かなり大人な詞にしました。菊池さんの曲から、そういう淫靡さというか、耳元で聞こえる息遣い、臭いが立ち上がってくる雰囲気を感じましたので。
― 続いて3曲目「真昼のノワール」について。作曲・編曲の清水Pから。
清水:構想の段階で、1曲デュエット曲があってもいいかなぁと考えてたんです。男性のゲストボーカリストをお願いして。それで、椎名林檎&トータス松本の「目抜き通り」が浮かびまして。いわゆるビックバンドジャズですね。でもそこを目指して曲作りを始めたんですが、なかなかいい感じでデュエット曲にならなくて、、、。それに、よくよく考えるとビックバンドジャズでデュエット曲だとあまりにもパクリ感が強いかな、、、とも思いまして、ジャンルは残したままソロにしました。なかなかアレンジ構想も固まらなくてオケづくりもギリギリになってしまって、ボーカルレコーディング時にもまだオケが出来てない状態で、、、もうちょっとアレンジ詰めたかったですね、反省しきりです。ボーカルは前の2曲がコーラス等重ねてるので、ここからの2曲は逆にシンプルにボーカル1本のみになってます。
― 作詞の伴野紀子さんです。
伴野:初めてデモを聴いたときに、後半のスローテンポになる部分は、大階段を羽根背負って下りながら歌い上げるイメージが浮かびました。もうそれしか浮かびませんでした。最初は人生を謳歌するような内容で書いてみたのですが、それを受けて清水さんから「モダン」とか「フィルムノワール」というキーワードが出たのでそれに合うような言葉をチョイスしていく中で、昔、場末のキャバレーで歌っていた女性が生まれ変わっても、またステージで歌っているという内容になりました。
ステージで歌う牧野さんのバックに、大階段と羽根が見えたら大成功です。
― そして4曲目の「グッドバイ」について。こちらは作詞・作曲・編曲とも清水Pですね。
清水:牧野がギターを練習していることは聞いてましたので、ステージでギター弾き語りのできる曲を1曲と思いまして、それならメッセージ性のあるフォークスタイルの曲を作ろう、と。メッセージ性のある曲なら今ならラップになるんでしょうが、ここはあえてのフォークです、ギター弾き語りならやっぱりフォークだと。曲もアレンジもシンプルにしたいと思ったんですが、シンプルがゆえに、この曲がこれまでで一番時間をかけて作ったように思います、Star☆Tへの曲も含めても。ただ、第一稿の歌詞を牧野に見せた時に「ちょっと歌いたくありません」とダメ出しがありまして、、、暗すぎると。それで、80%くらい書き直して今のバージョンになりました。どこかで出したいなぁと思ってますけどね、最初の歌詞も。タイトルの「グッドバイ」は太宰治がふっと浮かんでつけました、内容はリンクしてませんが。
― 3曲でギターを弾いているGENTさんにもお話を伺いました。
GENT:「赤く濡れ、焔を焦がせ」は菊池さんから要望を頂き、そんなに難しいことはしてませんが、アコギの音とディストーションの音を入れました。ど頭のアコギアルペジオとボーカルのみのところは、牧野さん本人と同時に合わせてレコーディングしたんですが、1回目僕がミスっちゃたんで2発目テイクです(笑)
「真昼のノワール」は、あまりやったことのないジャズ曲で、お話を頂いたときは正直、最初は不安でした。でもこうやって新たな挑戦というか、やってみることによって本当に勉強になったので感謝ですね。とにかく「タッタタッタタッタタッタ」というシャッフルを感じながら演奏しました。
そして「グッドバイ」。この曲のアコギは牧野さんが弾いてます、嘘です(笑)。牧野さんが弾いてる体ではあるんですが、僕が弾いてます。ボーカルレコーディングの時にスタジオで録音しました。レコーディングの時にエンジニアの深井さんに「1回しか録らないからね」と言われたので気合いで99.5%一発録りでいけました!エレキのディストーションも入れたのですが、少し重いサウンドになってしまったかも(苦笑)。
清水:リード曲の「STORY」も藤村さんが厚くギターを入れてくれてますし、「赤く塗れ〜」のオープニングや「真昼のノワール」のジャズギター、「グッドバイ」はアコギストロークと、ギターも4曲4様のシングルになりました。
― 最後にとっても印象的なCDジャケットについて。
清水:本人とアシスタントプロデュ―サ―の和久田との打ち合わせで、リード曲「STORY」を軸に、衣装やジャケットもオールディーズな雰囲気にしようとなって、和久田が「豊田にいいお店がありますよ」と知ってて、広路町のHOT BUNNY DINERさんで撮影させてもらいました。ジャケットをロケ撮影するのはほぼ初めてじゃないかと思います。デザインは「ハイブリッドガール」以降お願いしているコイケヤクリエイトさんです。和久田が揃えた衣装も含めてとってもいい雰囲気のジャケットになったと思います。一見するとスタジオで撮ったみたいですよね、でもほぼお店そのままです、ぜひおいしいハンバーガー食べに行ってください。
― プロデュ―サ―からCDを聞いている方にメッセージを。
清水:Star☆Tとしては初のソロプロジェクトで、Star☆Tとは一線を画すと言いますか、Star☆Tでは絶対やらない4曲になってます。Star☆T楽曲のアーティスティックな面を全開にした感じですね。それは、歌をいかに聞かせるかのためなので、牧野の“歌”をじっくり聞いて欲しいです。まだまだのところもありますが、丁寧に歌い分けてると思いますし、4曲4様を楽しんでもらえたらと思います。
― ありがとうございました。